血と薔薇の誘う夜に (Various)
著者: Various / 東雅夫・篇
出版: 角川ホラー文庫
國内版吸血鬼ホラー・アンソロジー。御題はベタだが「おや、こんな人も」 と云う意外な面子も(当社比) 東雅夫編纂のものは肌に合うかと云われれば少々微妙なのですが、簡潔な解説がお氣に入り。
- 仲間(三島由紀夫)
- 好みに適う屋敷を求め倫敦の街を彷徨い歩く父子。やがて彼等は、或る館の主に招かれ足繁くその許を訪ねることになる。具体的な場面などはありませんが、なんとなく父子が『ポーの一族』 の男爵とエドガーを彷彿とさせます。
- 契(須永朝彦)
- 仲秋の満月に近附く頃、また今年も若い男性チェンバロ奏者が幾人か募集される。聴衆のいない理由を告げられぬまま彼等は、晩餐会で或る曲を演奏する。僅か2頁強の掌篇。
- 影の狩人(中井英夫)
- 行きつけの酒肆で“彼”と出逢った青年は、万華鏡のように展開される彼の謎掛けを聞きながら、『青頭巾』 の僧と美童のように貪り喰われる事を夢想する。『とらんぷ譚』 収録作。難解そうなイメージがあったのですが、なんと素敵なアラベスク(恍惚)
- ヴァンピールの会(倉橋由美子)
- 寡夫となった男が始めた西欧料理店に、大學時代の同窓会と思しき女性客がしばしば訪れる。彼女等は広間を貸し切り、何やら秘密めいた行為に及んでいると思えなくもなかった。再讀。
余り好みのシチュエーションではないですが、実は氣附かないだけで、こう云うことは身近にあるのかも知れません。作中の“ソーダ水の中を貨物船が通る
”と云うのは松任谷由実の曲? - 吸血鬼入門(種村季弘)
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『吸血鬼幻想』 をものした著者の、自己解説を交えた吸血鬼譚パロディ。タイトルは恐らく、夜更けに氏の自宅に電話を寄越し、お奨め文献を尋ねた吸血鬼好きな少女に向けた冗句でしょう。
彼女と同年代の頃、私もその緑色の怪物に、吸血鬼ワアルドへ連れてゆかれたんです。笑吸血鬼なんかに興味を持っちゃいけないな。(……)頭のなかで私は思う。それなのに少女の可愛らしい葉書をつまんだ手が指先からみるみるうちに緑色に染まりはじめ、それがたちまち全身に回って、私が世にもむごたらしい緑色の怪物に変身してしまっているのはどうしたことか。そのうえ口はひとりでに腹にもない文句を唱えはじめている。
本文末尾より抜粋
「おお、ドラキュラ伯爵さま、大吸血鬼さま! 今日もまたあなたに捧げる餌食を一人かどわかしました。可愛い、十五歳の少女です。おお、ドラキュラさま、われらが至高のご主人さま!」 - かわいい生贄(夢枕獏)
- ロリコンのちゅうねん吸血鬼。みちこちゃんやきよみちゃんやきょうこちゃんを ひみつのばしょにつれていき、なかまにしてあげるのです。良くも惡くもインパクト大。女と云う生き物は、生れ落ちた瞬間から女なのだと思います。
- 干し若(梶尾真治)
- 干し殿と呼ばれた吸血鬼が跋扈していたと云う某半島奥地。現在は産廃業者が古タイヤ不法投棄の為に買い取られ、蚊が異常発生していた。正にその不法投棄の為に深夜半島に來ていた男は地元民達に追われ、行きがかった輸血センターの者と同乗して逃走する。その先に、血液が必要な患者がいるのだと云う。内容自体は左程でもないが、蚊の大群がかなりイヤ(T_T)
- 週に一度のお食事を(新井素子)
- 満員電車で首筋に接吻をされ昏倒する女子大生。次第に彼女は太陽光を厭いはじめ、食事も摂らなくなってゆく。キャッツキル
熱 とかじゃなく吸血病ですか。確かにこのテのものが蔓延すれば國は簡単に滅びるのかも。余り業のない吸血鬼もの。 - 白い国から(菊地秀行)
- 或る雪國の學校に単身転校して來た美少女。教師は彼女を、自分よりも遥かに長く生きているのではなかいと云う錯覚に陥る。雪女とか転生譚とか、様々なものが織り交ざったような幻想的な雰囲氣。藤原薫の『おまえが世界を壊したいなら』 をちょっと思い出した。
- 吸血鬼の静かな眠り(赤川次郎)
- 施工主が行方知れずのまま貸しに出された別荘に避暑に訪れた家族連れ。樂しいバカンスは姉弟がその地下室で中身のない黒い棺を見出した事によって次第に陰惨な色彩を帯びてゆく。火曜サスペンスっぽいラストがなければこの作品は良かった。
- 吸血鬼(江戸川乱歩)
- ポーの作品を始めとする、「早過ぎた埋葬」 に関する随筆。埋葬後の屍が肥えたり、髪や爪が伸びる理由などの可能性を数え上げる。冒頭の、仮死状態で不完全な火葬に附されるくだりは、嘘かまことか、私も時折耳にする。生殺しでミディアム・レアは勘弁願いたいものだ。
- 吸血鬼(柴田錬三郎)
- 戰後、東欧の花嫁と共に敷地内の洋館に住まった次男坊。最愛の妻の死後彼の言動が次第に常軌を逸してゆくのを案じた兄嫁は、彼の元同窓生で今は精神病理學者の男に相談を持ちかける。ラストが少々ギョッとする。なまじ原型を留めた人体は、云いようもなくおぞましい。
- 吸血鬼(中河与一)
- 母親の死後、珠のように一人娘を愛で慈しんできた父親と、その情に馴れ親しんだ娘の間に這入り込んできた、醜く老いた後妻。日を経るにつれ、娘はその老女が文字通り“若返ってゆく”のを目の当たりにして愕然とする。
- 吸血鬼(城昌幸)
- 話者と友人がエジプトを訪れた折のこと。ナイルを下る歌芸人の舟に行き会い乗船する。その後情緒不安定になった友人はある朝、痩せ衰えた瀕死の状態で発見される。医師曰く、年に数人同様の症例があるのだとか。いまいちピントの合わない作品でした。
- 血を吸う怪(松居松葉 / E&H・ヘロン原作)
- 西欧の化物屋敷。近頃俄かに活性化した化物が住人達を脅かし、遂に人死にが出たと云うので呼び寄せられたフラックス博士が、原因究明に乗り出す――と云う筋書き。原因を突き止め、いとも容易く事態を鎮静化出來ると云うあたりが、恐らくこのテの話の限界なんだろうな。この類いの話では、人間は終始怯えっぱなしなのが良い(それでもオカルティックであることに変わりはないんだけれど)
- 日本にも吸血鬼はいた(百目鬼恭三郎)
-
古典の名著に取材した、吸血鬼の類例に関する随筆。宗教、死生観の相違からか、日本では血そのものより精氣や水分を奪うとされるものが多い模様。以下言及文献。
- 『
慈力王本生譚 』(仏教説話) - 『
大唐西域記 』 - 『今昔物語(巻二十七)』〜源融の
河原院 の事 - 『耳袋』(江戸後期の随筆集)〜血を取る妖僧の話
- 同・血を啜る
鼬 - 『古今著聞集(巻十七)』〜法親王と水餓鬼の事
- 『平家物語剣の巻』〜頼光の蜘蛛切の刀
- 『土蜘蛛草子』(室町期の御伽草子)
- 『土蜘蛛』(謡曲)
- 『
伽婢子 』(江戸初期の怪異小説)〜『蜘 の鏡』
- 『
讀みやすい分量だから、サクサク讀めたは良かったが、さすがに終盤胸焼けが;;;;;
